政春は、出張先の北海道から危篤状態の母の元へ向かう汽車の中(本州のどの辺を移動中か、ドラマの中では不明)で「お母ちゃん…。」と、つぶやいた。

 

広島の亀山家。長女の千加子は、死期が迫まり、夫、政志に、「政春、帰ってきたら、祝言、挙げてやって、つかい。」と、伝言した早苗に、心残りのないように、せめてエリーが花嫁衣装をまとった姿を見せようと、エリーと共に2階の政春の部屋で、着付け中。島爺とすみれは、帰り着かない政春を待って、表へ移動。

夫の政志が、早苗の様子を見守っている。早苗が、弱々しい声で、「政志さん…。」と、呼びかけた。「ん?」と、顔をちょっと早苗に近づける政志。「政志さんのおかげで…、この家も守れた。子どもらも…。政志さんのおかげです。ありがとう。ありがとうがんした。(=ありがとうございました。)」と、婿養子(むこようし)の夫に、感謝の言葉をかけた。政志は、「早苗。」と、呼びかけた。早苗は、「申し訳がんせんが(=申し訳ありませんが)、あとの事、よろしゅうお願いします。」と、言って、左手を布団から出し、政志はその手を両手で包む。早苗は、眠りにつく前の様に、目を細め、「ありがとう…、ありがとうがんした。」と、もう一度言った。政志は涙をこらえながら「わしもじゃ。」と、強く早苗の手を包み「お前と…、夫婦(みょうと)になれて、えかった(=よかった)わい。」と、うなずきながら、伝えた。かすかに目を開け、政志を見つめ、早苗は「ほんまに…。ほんまに、ありがとうがんした。」と、言う。「早苗。」と、呼びかける政志。早苗は、ン、ンホ、コホと、乾いたせきをはじめ、苦しがる。政志が「早苗!しっかりせえ、しっかりせえ。」と、はげます。その時、千加子が「お母ちゃん、支度できたけん。」と、小走りで戻ってきた。政志が、「ああ、そうか。」と、言うと、千加子は「うん。」と返事して、母のそばに駆け寄る。政志が「見てやりんさい。のう?」と、言って、千加子と力を合わせ、早苗の上半身を起こす。ん、あ…、と、苦しげに声を上げつつ、上半身を起こす早苗。千加子が掛け布団にかけていた袢纏(はんてん)を手に取り、政志が「よしよし。」と、早苗の背に回って起こした後、母の背中に袢纏をかけてやる。ひとかたまりになった3人は、隣の仏間に注目。

千加子の結婚衣装を借り、色打ち掛け姿のエリー(髪は、いつものスタイルのまま。かぶり物、飾りは無し)が、しずしずと姿を見せた。

「あ~っ…。」と、穏やかな顔で見つめる政志・千加子。

苗は、目に涙を浮かべ、「エリーさん…。」と、つぶやいた。

エリーは、正座し、目に涙を浮かべ、「お父さん…。」涙がこぼれそうになり、まばたきし、まぶたを閉じ、「お母さん。」と、言って、目をぱちり開け、手をついて、挨拶をした。ニコニコ笑顔で見つめ合う政志と早苗。千加子も笑顔でそんな両親の様子を見守って、うなずき合う3人。

早苗は「エリーさん…。べっぴんな花嫁じゃ。」と、満足そうに微笑む。エリーは、オホッと、笑い、鼻をすすりあげ、目を閉じ、「ありがとうございます。」と、頭を下げた後、うれし涙をこぼし、泣き笑顔で、早苗を見つめる。笑みを浮かべ、何度もうなずく早苗。エリーは、「ありがとう。」と、もう一度言った。

夕暮れ迫る板の間では、日中、姿が無かったエマが、女中にお手玉で遊び相手になってもらって、楽しそうに遊んでいる。すみれは、台所の土間と板の間の上がり口のところに、浮かぬ顔をして、座り込んでいる。戸が開き、島爺が腰をかがめ、「すみれお嬢さん、ここは、わしが。奥様のそばに。」と、一人で政春の帰りを待つから、座敷に戻るように、うながすが、すみれは、「ここにおる。お母ちゃんの顔、見とったら、涙がでてくるけん。」と、目を腫(は)らし、涙をこらえる様子でそう言ったので、島爺は、なすすべもなく、もう一度表の様子を見に、足を運ぶ。

 

座敷では、早苗がそばに座る、花嫁衣装を身にまとったエリーに向かって、心の内を語っていた。政志は、早苗の寝ていた枕辺りに目線を落とし、千加子も母の背をうつむき加減で見つめ、じっと早苗の話に耳を傾けている。

「うちはのう、本当は、男に生まれたかったんじゃ。小(こ)んまい時(=小さい時)から、この蔵の跡取り言われて、おなごじゃけん、酒造りも、蔵にも入れてもらえんかった。じゃのに、政春は…。思い通りには、いかんもんじゃ。」早苗の話に微笑むエリー。政志は、早苗の無念さを聞き、ぐっと口を結び、辛そうな顔をしている。早苗は、目に涙を光らせ、「じゃけど…。政春が、ウイスケの話してる時は、目が、キラキラしとった。」と、言う。エリーも目に涙を浮かべ、笑顔でうなずく。手で涙をぬぐい、笑みを浮かべたまま、早苗を見つめるエリー。「見てるあんたも、キラキラしとった。うちは…。ン、フッ。」と、途中、せきをする早苗。後ろにいる千加子も涙ぐんでいて、身じろぎし、座り直す。早苗は、言葉を続けた。「うちは…。家を守る事だけ、考えてきた。夢なんてみた事は、ない。もうちっと、生きられたら、のう…。いつか、おなごも…、男と同じように、意見を言い合(お)うて、働ける時代が来るじゃろう。」と、語った。エリーは、目を潤ませながら、笑みを浮かべ、うなずく。はあっと息を吐き、涙をこぼし、エリーと早苗は手を握りあった。エリーが右手で早苗の手をさする。「エリーさん。」「はい。」早苗は、「つらい事ばかり言って、許して下さい。」と、涙をこぼし、前かがみになり、これまでの事を謝った。

エリーは、涙を浮かべながら、首を横に振り、早苗に微笑んだ。顔を上げた早苗の前で、笑顔で、また、首を横に振る。早苗は、「肌の色が違(ちご)うても、目の色が違(ちご)うても…、話す言葉が違(ちご)うても、人間の情けには、変わりはない。エリーさん…。」早苗はしっかり、目を開いて、エリーを見つめ、「政春の事、マッサン…、よろしくお願いします。」と、頼む。エリーは、何度もうなずき、鼻をすすり上げ、「はい…。」と、答えた。政志が涙をこらえている。千加子もぎゅっと口を結び、嫁姑の和解を見守っている。しばらく無言でエリーと見つめ合った後、早苗は「あんたは…、日本一 …、世界一の嫁じゃ。」と、最高の賛辞(さんじ)を送った。感無量(かんむりょう)のエリー。ケホケホとまたせき込み始める早苗。千加子が母の肩に手を伸ばし、エリーは、左手は、早苗と固く手を繋いだまま、自由になる右手で、千加子と共に早苗が肩に掛けている袢纏(はんてん)を整えているところに、ドタバタと足音が。仏間にまず島爺が慌てた様子で駆けてきて、「奥様…、奥様!」と、声をかけた。続いて、すみれも駆けつけ「お兄ちゃん、来たよ!」と、母の元へ駆け寄る。仏間に帽子をかぶったまま、政春が姿を見せ、母の姿を見て、目を見開きながら、帽子を取り、母に駆け寄る途中、帽子を投げ捨て、急いで母を抱きかかえる政春。早苗は、エリーと繋いだ手を離さず、ずっと握りしめている。エリーが「マッサン…。」と、呼びかけ、右手を政春の背に当てる。政春が、意識が遠のきかけている母に顔を寄せ、「お母ちゃん。」と、呼びかけた。早苗が目を開き、「政春…。」と、つぶやくような声で答えた。「ん?」と、右手で母の肩をさすり、母の言葉に集中する政春。「バカタレ、遅かったのう~。」と、涙声で、甘えるように言う早苗。政春が涙を浮かべ、「悪かったのう。」と、謝る。「政春。」「何じゃ?」と、母を見つめる政春。「最後に…、言っておく事がある。」と、弱々しい声で語る早苗。心して聞こうと、うんとうなずく政春。見守るエリー。「お前の造ったウイスケは…、まずい。」と、ぽつり。「え?」政春の涙が、一瞬で、ひいた。母の言葉がぐさっと胸に突き刺さり、言葉をなくす政春。早苗は「エリーさん。」と、もう目も開かない状態で、呼びかける。「はい。」と、返事するエリー。政志、すみれ、仏間に控える島爺がじーっと見守っている。一人、早苗の背の方に控える千加子は、うつむき、涙をこらえている。

早苗は、最後の力を振り絞るように、はっきりと「サンキュー。」と、言った。頬を涙で濡らしながら、微笑むエリー。「グッドバイ。」エリーに教えてもらった英単語で、別れの挨拶をする早苗。「グッド…。」と、言って、政春の腕の中で、首が後ろに倒れていく。エリーが、はっと息を吐き、ボロボロと涙をこぼす。政春も泣きながら「お母ちゃん!」と、呼びかける。「お母さん。」と、大粒の涙をこぼし、呼びかけるエリー。政春が両手を組んで、母の体を支え、「お母ちゃん。」と呼びかけるが、早苗の体は、もう、だらんと、力を失っていた。エリーも「お母さん。」と呼びかける。部屋中に泣き声が満ちる。政志が涙をこらえ、千加子は「お母ちゃん…。」と、泣き、すみれもうつむいて、大泣き。島爺もこぼれ落ちる涙をぬぐい、口元を押さえ、声を出さないようにこらえながら、大泣き。政春は、母の顔を見つめ「お母ちゃん…。」と、顔をゆがめ、大泣き。エリーは、最後の最後に、心を通わす事が出来た義理の母に、感謝を込め、繋いだままの手にキスをして、頭をすり寄せて、泣き崩れた。

 

着物を脱ぎ、洋服に着替えたエリーの膝(ひざ)の上には、エマが座っている。

布団に安置された早苗の顔に、政志が、白い布をかぶせる。政春は、掛け布団の上から、亡き母の左の膝(ひざ)付近をさすってやっている。仏間に控えている島爺は、沈痛な顔で、うつむいている。政春が、布がかけられた母の顔の方を見つめ、立ち上がった。そんな政春を見上げる、千加子、すみれ。エマは、目元を手でぬぐう。政春は、しばらく、布のかけられた母の顔を見つめ、何も言わず、仏間を通って、2階の自室へ戻って行った。

 

エリーがネックレスのシンブル(裁縫道具の西洋の指ぬき)を両手で握りしめ、様子を見に上がって来た。開け放たれたままのふすま。「マッサン…。入ってもいい?」と、聞いて、一歩足を踏み入れる。テーブルの前に腰を下ろしている政春は、うつむいたまま、「ああ…。」と、答えた。エリーは、ふすまを閉め、窓側を背にして、座る。政春はエリーの方に目線を向け、「えかったのう。最後の最後に…、嫁として、認めてもらえて。」と、言った。笑みを浮かべ、目を閉じ、うなずくエリー。涙をこらえ、「はい。」と返事して、目を開け、政春を見つめる。政春は両手を後ろにつき、「はあ…。飲んでもらいたかった。心の底から…、ほんまに、うまい、思えるウイスキー造って…、お母ちゃんに…。最後の言葉が…、<まずかった>じゃのう。」と、嘆く(なげく)。エリーが「マッサン。」と、政春の方に少し近づき、「No…、No。」と、政春のマイナスなイメージを懸命(けんめい)に否定する。

「<まずい>って、言ったんじゃない。」と、首を激しく横に振り、ん?と確認するような笑みを浮かべ、「早く、おいしいウイスキー、造れって。My Love…(※政春に対する呼びかけ。)、お母さん、本当は<頑張れ!>、言いたかった。」と、真剣な目をして、訴えるエリー。政春は、しょんぼりとした顔をする。それを見て、エリーに一層、熱がこもる。

「だから、お母さんのために、絶対、造らなきゃいけない。」

政春は、床から手を離し、体を起こし「エリー…。」と、言って、ズッと音をたてて鼻をすすり、目に力を宿らせ、「わし…。わしゃ、もういっぺん…、大将のとこで、頑張ってみるけん。」と、宣言。エリーは、目を潤ませ、「うん。」と、政春の右手に、自分の手を重ね、うなずいた。

政春は、「いつか、お母ちゃんにも、うまい言うてもらえるような、世界一のウイスキー、造ってみせるけん。」と、目を潤ませ、エリーに語る。目に涙を浮かべ、うなずくエリー。

「I know I know.(わかった、わかった。)」と、繰り返し、うなずく。エリーは、政春の右の二の腕にふれ、早苗を亡くした痛みを夫婦で、分かち合っている。

 

来週へつづく。

 

※来週は第15週「会うは別れの始め」

工場長に復帰した政春だったが、今までのピート臭の強いウイスキーとは違う、客が好むブレンドにこだわり、自分の造りたいウイスキーが、自分でも分からなくなってしまう。

急に方針転換した政春を批判する英一郎達とも意見が合わず、意固地になりすぎた挙げ句、勤務中、工場で倒れてしまう。政春が、鴨居商店を辞めたがっているのではないかと気付くエリー。鴨居商店を辞め、独立することを申し出た政春に、欣次郎は「従業員とその家族を食わせていかな、ほんまにそこが、分かってんのか!」と、大激怒。政春と大将の別れの時?

 

※早苗の「マッサン」やエリーから教わった英語を、死の間際に使ったセリフは、ピン子さんの提案によるものだそうです。エリーとずーっと、手を繋いだままの亡くなり方も。

さすが、前もって、自らネタバレしていた通り、演技力を感じさせられた、見事な死に様でした。

 

※この当時、舞鶴には北海道から民間航路無かったと思うのですけど、政春、どうやってあんなにぎりぎり間に合うように戻って来られたのか?

あの時代に合ってない気がします。北海道から青森に船で渡って、鉄道で広島の竹原まで何十時間かかっていたんだろう?ちょっと調べてみましたが、適切な資料見つかりませんでした。